[論文] カリフォルニア大 核内受容体コリプレッサーに2型糖尿病治療の可能性 (2012/01/30)
核内受容体コリプレッサー(NCoR)の2型糖尿病への効果についてカリフォルニア大学の研究グループが報告しました。
2型糖尿病の特徴としてはインスリン抵抗性、組織の炎症、脂肪組織の機能障害、肥満があげられますが、脂肪細胞に特異的なNCoRのノックアウトマウスでは、肥満になるにも関わらず耐糖能が改善され、肝臓、筋肉、脂肪細胞でのインシュリン感受性が高まり、さらには脂肪組織のマクロファージの湿潤と炎症も抑制されることを明らかにしました。メカニズムとしては、核内でPPARγと結合するNCoRが無くなったことで、PPARγが常に活性化状態になり、脂質生成が亢進するため、インシュリン感受性が高まり、さらにマクロファージによる炎症も抑えられるとしています。脂質生成が亢進したとしても、糖尿病を抑えられるならば、糖尿病から引き起こされる様々な疾患の予防につながるので、治療に用いられる可能性があるのではないでしょうか。
PPARγは、別の観点から創傷治癒効果が角膜で検討されており、こちらはPPARγを過剰に発現させることによって、PPARγを活性化させ、ファイブロブラストやマクロファージの活性化を抑制することにより、瘢痕形成を抑えながら創傷治癒を促進するというもの。どちらもPPARγの活性化をターゲットにしているものの、片方はPPARγのパートナーであるNCoRを減らす方法、もう一方はPPARγ自体を増やす方法と、アプローチの違いがあるのが興味深いです。
[論文] テキサス大学サウスウエスタン医学センター 運動が体に良い理由の一つはオートファジーだった (2012/01/23)
テキサス大学サウスウエスタン医学センターの研究グループが、なぜ運動が体に良いのかについてひとつの根拠を明らかにしました。研究グループはオートファジーという生体の機能に注目し、これが運動により活性化することを発見したそうです。
オートファジーのマーカーとしてGFP-LC-3を発現させたマウスに、トレッドミルでの運動をさせたところ、30分で筋肉や心臓の細胞でGFP-LC-3のスペックルが増え、オートファジーの活性化が起こることを明らかにしました。さらに、運動によるオートファジー活性化が起こらなくなるBcl-2欠損マウスを使った実験では、細胞へ糖を取り込むAMP kinaseの活性化が起こらないために、せっかく運動しても血中の糖レベルが高いまま、正常マウスよりも走り続けることができなくなることがわかったそうです。
そこで糖代謝とオートファジーの関係を調べるために、正常マウスとBcl-2欠損マウスに高脂肪の食事を与えて2型糖尿病の状態にしたのち、高脂肪の食事を与えながら8週間の厳しい運動をさせたところ、どちらのマウスも体重が減ったものの、正常マウスでは細胞の糖取り込み機能が回復して糖尿病が治っているのに対し、Bcl-2欠損マウスでは血中の糖レベルが高いまま、糖代謝の異常は改善されないことがわかり、2型糖尿病の改善には運動によるオートファジーの活性化が重要であることを明らかにしました。
運動は体に良いということが科学的に証明されましたが、それでも、運動の続かない人にとってどのくらいの励みになるのかは少し疑問です。ただ、この研究グループの一人はこの結果に影響をうけてトレッドミルを始めたそうです。マウスに効果があるのだから、私にも効くはず、というコメントが載っていました。
[論文] Georgetown大学 ROCK阻害剤を使った初代培養技術 (2012/01/16)
組織から細胞を取り出し培養する初代培養の技術は細胞生物学や医学分野では欠かせないものです。しかし、種類によっては、細胞を取り出して培養すると生体内での形態や機能が失われてしまい、細胞ベースの研究に使うことができない場合があり、研究者の悩みの種にもなっています。
Georgetown Universityの研究グループはROCK阻害剤(Y-27632)とフィーダー細胞を加えることで、組織から取り出した正常細胞とガン細胞をconditionally reprogrammed cell の状態で培養することが可能になったことを報告しました。
その培養方法では、細胞の形態はstem-like phenotypeになるそうなのですが、針で採取した少しの組織から5,6日で2 x10^6細胞まで増やすことができるとのこと。なぜROCK阻害剤にこんな効果があるのかは少し不思議ですが、ROCK阻害剤とフィーダー細胞を加えるくらいならば比較的簡単に試せそうに思います。
この方法はガン治療薬開発だけではなく、ガン患者からガン組織と正常な組織を少しずつ採取してそれぞれの細胞を培養し、投与する薬の種類や濃度をその細胞で比較することで、患者さんに対して正常な細胞へのダメージを少なくして、より効果的にガン細胞を抑える治療法を選択することにも用いられるとしています。遺伝子を調べて医療に応用するオーダーメイド医療の研究がすすめられていますが、患者自身のガン細胞を培養して効果のある治療薬を選択する方法は、より治療の現場に即した方法として発展していく可能性があるのではないでしょうか。
[論文] Weizmann Institute 抗体でMMPを抑え込む技術 (2012/01/10)
抗体は細菌やウイルスから体を守る免疫システムに欠かせない存在であり、近年では抗体医薬としての用途が注目されていますが、一方でなんらかの原因で産生した自己抗体が引き起こすクローン病やリウマチ性関節炎のような完治の難しい自己免疫疾患も存在します。Weizmann Instituteの研究グループは抗体を使ってmatrix metalloproteinase (MMP)を不活性化する技術を報告しました。
MMPは細胞外マトリックスを分解するタンパク質分解酵素ですが、自己免疫疾患や腫瘍の転移に関与することで知られ、阻害剤の研究がすすめられているそうです。研究グループは生体に存在し、MMP阻害剤として機能するtissue inhibitors of metalloproteinases (TIMP)に注目して、これに似た化合物の合成を試みたそうなのですが構造が複雑でうまくいかなかったため、次に、TIMPと同様にMMPの活性部位へ結合する抗体を作る方法を考えたそうです。MMP9の活性部位のみの断片をマウスへ投与したところ、TIMPに似た、TIMPと同様の働きをする抗体(metallobodies)がマウスで産生されることがわかり、このmetallobodiesをクローン病のモデルマウスに投与すると、症状の改善が見られることもわかったそうです。
Weizmann InstituteのプレスリリースにTIMPとmetallobodiesがMMPに結合するモデル図がのっているのですが、metallobodiesもTIMPと同様にがっちり結合してMMPのやや内側にある活性部位をふさいでいるのがよくわかります。受容体などのファーマコフォアモデルを作製し、ドッキングスタディをするのはリガンド探索によく使われる手法ですが、実際にそこで得られた候補化合物を試してみると、効果が得られない、毒性が高いなどの問題が出てくることもしばしばです。今回の報告のように、活性部位に対する抗体を作ってみるという方法も検討する価値があるように思います。そして、自己免疫疾患に対する治療法が自己抗体とも言えるmetallobodiesとは、発想の転換の仕方がすごいと思います。