[論文] Hawaii大 心臓肥大により心筋細胞からVEGFが放出されていた (2011/12/20)
血管新生を引き起こすことで知られるVEGFですが、心筋細胞の機能維持にも関与しているそうです。急性心筋梗塞の患者さんで血清中のVEGFが増加すること、また冠状動脈閉そく後の心筋機能回復にVEGFが働いていることが知られています。
そこでHawaii大の研究グループは心臓肥大のモデルを作り、心筋の細胞からVEGFが放出されるメカニズムを明らかにしました。報告によると、ラットの心筋細胞を引き伸ばすmechanical stretchという誘導方法でVEGF分泌量を調べたところ、引き伸ばす刺激を与えた細胞から通常の3倍のVEGF分泌がわかったそうです。さらにはNFkBの阻害剤でVEGF分泌増加が抑制されたことから、NFkBの活性化によりVEGFの発現が増えていることも明らかにしました。心筋細胞を引き伸ばす刺激がどのようなシグナルとして細胞に伝わってNFkBが活性化するのかかなり気になります。一方で、心筋梗塞など心筋機能の低下による心筋細胞の低酸素状態がVEGFを増やす可能性もあるような気もします。
もうひとつ気になるのは、心臓肥大の患者さんでVEGFによる黄斑変性症のリスクが増えたり、あるいはがんの治療にVEGF抗体を使うことが心筋細胞へのダメージにつながることはないのかという点です。今回の報告はラットですが、ヒトでの血清中VEGF量の比較などからそのリスクを推測できる可能性がありそうです。
[論文] UCLA大 脳の老化にはBDNFの減少が関与していた (2011/12/12)
神経の成長因子には、NGF、BDNF, NT-3などいくつか種類があり、さらにはPACAPなどのペプチドも神経の伸長に関係するといわれています。種類が多いゆえに神経伸長の機能解明へ道筋も複雑化している印象があり、また、多様な視点で研究されているので全貌を把握するのも大変です。EGFやIGFで比較的簡単に育つ上皮細胞とは違うのだなと考えてしまいます。
UCLAの研究グループの報告によれば、若齢ラットと老齢ラットの海馬を比較すると老齢ではBDNFの量が減っており、このことがシナプス可塑性に影響していることがわかったそうです。これは加齢によるヒストンアセチル化の減少が原因で、BDNF遺伝子のヒストンアセチル化も減り、結果としてBDNFの量が少なくなっていたそうなのです。そこで、ヒストンデアセチラーゼの阻害によりBDNFとその受容体TrkBを増やしたところ、歳をとった海馬の細胞のシナプス可塑性が回復することが確認され、さらにはTrkBのアゴニスト7,8-dihydroxy flavoneによっても同様の効果が得られたということです。
加齢による海馬の機能低下は、ヒストンアセチル化の減少がもとで起こっていたということで、ヒトでも同様の現象が起こっているならば、BDNFのコントロールによって物忘れが防止できるようになるかもしれません。また、運動により血中のBDNFが増え、記憶力が良くなるという報告もあるので、記憶力保持のための指標に用いることもできそうです。
[論文] Buenos Aires National Academy of Medicine ガン転移を抑制するアミノ酸 (2011/12/05)
ガンはlocalized(限局性)、metastasis(転移性)の2つにわけることができ、限局性のガンが転移性に変化してしまうことがガンの治療を難しくしているといわれています。Buenos Aires National Academy of Medicineの研究グループはこの転移性ガンへの移行がmeta-チロシンとortho-チロシンにより抑制されることを報告しました。
転移性ガンへの移行にはT-cellに関連した経路や、血清の成分が関係しているといわれており、研究グループはこの血清の成分のうち、meta-チロシンとortho-チロシンがマウスのモデルにおいてガンの成長抑制に効果があること、さらには転移性ガンへの移行も抑制することを明らかにしたそうです。また、この抑制効果はmitogen-activated protein/extracellular signal-regulated kinase pathwayの阻害とSTAT3の不活性化によるものであることも確認しているとのこと。アミノ酸でERKが阻害されてしまうとは、少し怖い気もしますが。
現在のところ転移性ガンへは主に化学療法が用いられますが、副作用がつきもので、思うような結果が出ない場合があり、それに対して血清の成分であるmeta-チロシンとortho-チロシンならば毒性が少ないと予想されることから、ガン転移を抑制する治療薬として可能性があるのではないかとしています。一時期はアミノ酸単体ではなく、3アミノ酸からなるトリペプチドに新たな機能があるとして注目されたこともありましたが、アミノ酸にもまだ未知の機能があるのかもしれません。