トップページ» ニュース» 2011年10月

[論文] カルフォニア大 Aβによる細胞膜ポアとCa流入 アルツハイマーに新説 (2011/10/27)

アルツハイマー病というと不溶性Aβ(アミロイドベータ)の蓄積が神経のダメージにつながるとされてきましたが、最近ではそれよりも小さなサイズの可溶性Aβが細胞外からのカルシウム流入を促進してしまうために、シナプスの信号が途絶え、さらには細胞死を導いているという考え方があるようです。

カリフォルニア大の研究グループがこの小さなサイズの可溶性Aβ(Aβオリゴマー)がどのようにして細胞外からのカルシウム流入を起こすのかを調べたところ、Aβオリゴマーは内在性のチャネルを活性化してカルシウム流入を引き起こすほかに、Aβオリゴマー自身がカルシウムを透過するポアを細胞膜上に形成して大量のカルシウムを流入させていることがわかったそうです。

研究グループはオプティカルパッチクランプという方法で、細胞膜表面の一個ずつのポアにカルシウムが入ってくる様子をモニターしたと書いていました。細胞の種類によりますが、カルシウムのモニタリングは難しい実験という印象があります。わたしは顕微鏡下で検出する方法を主にやっていましたが、カルシウムが流入して細胞が光るのが見えればよしとしていたレベルだったので、細胞膜表面の一個ずつのポアから入ってくるカルシウムをモニターするなんてマニアック過ぎるなと感じてしまいました。でも、そこまで厳密に検出ができなければ今回の発見はなかったかもしれません。

アルツハイマーには細胞内カルシウムストアの制御がうまくいかなくなることも関係している、という報告もありますが、カルシウムストアから出てくるカルシウムの濃度を考えると、細胞をコントロール不能にしているのはAβオリゴマーが形成するポアによる細胞外からのカルシウム流入が第一の原因となっているのではないかとわたしは思います。アルツハイマー病で起こっていることがひとつ明らかになったことで、Aβオリゴマーに結合して不活性化しカルシウム流入を防ぐ方法や、カルシウム流入による細胞死を防ぐ方法など、治療に対するアプローチが増えてくるのではないでしょうか。

[論文] ジョージア大学 肺高血圧症の発症メカニズムからCalpain阻害剤の新たな用途を発見。 (2011/10/21)

TGF-betaは薄毛の原因因子として、さらには血管新生や瘢痕形成への関与など、多くの疾患との関わりが明らかとなっています。そして、ジョージア大学の研究グループの報告によるとTGF-betaは肺高血圧症にも関与しているようなのです。肺高血圧症は喫煙や大気汚染などの影響により、肺の血管内腔が狭くなって血圧が上昇する疾患で、心臓への負担が懸念されており、また、最近よく目にするCOPDと併発する場合もあるといわれています。

研究グループは肺高血圧症のモデルで見られるTGF-betaの活性化にCalpainが関与していることを手掛かりに、Calpain阻害剤がTGF-betaの活性化を抑え、肺高血圧症で見られる肺動脈平滑筋細胞でのコラーゲンの増加を抑制することを明らかにしました。つまり、喫煙などにより、肺動脈平滑筋細胞が低酸素状態になると、Calpainが活性化してしまい、それが引き金となってTGF-betaによる肺動脈平滑筋細胞の構造変化により、肺高血圧症を引き起こしていたのです。

論文のなかで印象的だったのは、肺高血圧症の患者さんのサンプルでCalpainの活性化をSBDP (Calpainで切られたSpectrinの断片)の免疫染色で見ているところではないでしょうか(論文のFig. 15)。

Calpainの活性を直接測るのはなかなか面倒ですが、その基質であるSpectrinの断片SBDPを検出するのであれば、固定した組織の切片さえあればできるので、比較的簡単に調べられ、患者さんの肺でCalpainの活性化が起こっているのかがわかります。診断に用いるのに有用であることもそうですが、免疫染色に使えるくらいの良い抗体となれば、使ってみたいという研究機関がたくさんありそうに思います。そして、Caplainといえば、アルツハイマーや白内障治療薬のターゲットとして阻害剤の開発が期待されています。今回CalpainからTGF-betaへのシグナルカスケードが明らかになったことで、肺高血圧症やそのほかのTGF-beta関連の疾患へ向けてCalpain阻害剤の用途が増えてくるのではないでしょうか。

[論文] レスター大 嫌な思い出が残らない?Lipocalin2と記憶の関係を解明。 (2011/10/17)

レスター大の研究グループがLipocalin2というたんぱく質が、樹状突起スパインの構造を変えることにより記憶の状態をコントロールしていることを報告しました。

研究グループは精神的なストレスでマウスの海馬にLipocalin2が増えることに注目。海馬ニューロンの培養細胞にLipocalin2をかけたら、樹状突起スパインのアクチンに働いて、スパインの成熟を阻害することを発見したそうです。Lipocalin2があると、ストレスで成熟するスパイン(嫌な記憶)ができにくくなるということのようです。また、Lipocalin2欠損マウスでは、ストレスで誘導されるスパインの密度が上がることからも、Lipocalin2の働きがスパインの形成に関与していることを確認していました。
Lipocain2は何か脳で働いていそうだ、ということで研究されていましたが、海馬でスパインの形成に関与していることが今回わかったようです。Lipocalinは160~180個のアミノ酸からなる比較的小さなタンパク質で、私はLipocalin1のほうを少し実験で使っていたことがありました。Lipocalin1もLipocalin2同様分泌タンパク質で、Lipocalin1は涙の中にある成分なのですが、機能としては涙の中の油と作用して、涙の層の保持に働いていそうだ、ということぐらいで、涙の中の成分としては存在感の薄いタンパク質でした。同じファミリーのタンパク質でも、種類によって働きが全くことなる一つの例です。
しかし、Lipocalin発現の制御系は似ている可能性があるので、もしLipocalin2の発現制御について海馬ニューロンが培養しづらくて実験しにくいとなれば、Lipocalin1の発現メカニズムがヒントになることもあるかもれません。もしLipocalin2を治療に用いるとしても、Lipocalin2を脳にinjectionするわけにはいかないと思うので、発現メカニズムの解明も必要になってくるのではないかと思います。

[論文] サンフォード・バーナム医学研究所 褐色脂肪細胞を増やしてエネルギー消費を促進するOrexin (2011/10/16)

最近はメタボリックシンドロームから一歩進んで、肥満が引き起こす疾患の連鎖をメタボリックドミノと表現することがあります。以前機会があって、メタボリックドミノについての講義を聞いたとき、肥満は炎症と似た状態である、という説明に驚がくしたのを覚えています。そんな怖い肥満の解決につながりそうな分子がサンフォード・バーナム医学研究所の研究グループから報告されました。

研究グループは、脳で産生されるOrexinというホルモンに注目し、欠損マウスでは食事量が多くないのに肥満化し、それが食事による褐色脂肪細胞の熱産生が減るためであることを発見しました。さらには、Orexin欠損マウスでは生まれつき褐色脂肪細胞の発達が悪く、成人になっても褐色脂肪細胞の熱産生によるエネルギー消費が悪いために肥満化することを明らかにしたのです。

Orexinはオーファン受容体のリガンドとして単離され、摂食と覚醒に関係するホルモンとして研究されてきました。それが今回の研究により胎児期の褐色脂肪細胞の分化に関与し、その後の肥満化を左右する重要な分子であることがわかったということなのです。

生まれる前に褐色脂肪細胞の状態が決まってしまうならば、成人後肥満が発覚してからでは何もできないような気もしますが、あなたはOrexinレベルが低いために褐色脂肪細胞が少ないのですよ、と教えてもらえれば、自分が肥満化した理由が納得できそうな気もします。ただし、成人後でも褐色脂肪細胞の前駆細胞が残っていれば、後からOrexinを足して褐色脂肪細胞を増やすことができるかもしれません。現在の減量療法は食欲を減らす方法が多いのですが、成人後でも褐色脂肪細胞をコントロールできるようになれば、新たな減量療法として注目されるのではないでしょうか

[論文] ミズーリ大 脊髄性筋萎縮症では神経と筋肉の会話が遮断されていた。 (2011/10/04)

ミズーリ大の研究グループが脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy , SMA)における神経と筋肉の関係について報告しました。

報告によれば、SMAでは神経におけるキネシンの活性は変わらないものの、輸送されるvesicleの量が減るために、筋肉へ信号を伝えられないことを明らかにしたそうです。体の動きには神経と筋肉の複雑なコミュニケーションが必要なため、神経から筋肉に信号を伝えるどこかのポイントに障害があると、体を動かすことができなくなってしまいます。SMAでは、信号を運ぶ道具(キネシン)ではなく、信号(vesicle)が減ることが筋肉を動かすことができなくなる原因となっているのではないか、ということなのです。モータータンパク質は1分子レベルで検出されるほど詳しく研究されており、チューブリンの上を歩くキネシンやアクチンの上を歩くミオシンをとらえた顕微鏡写真が話題になったこともありました。また、vesicleについても運ばれて細胞膜に融合し、中身が放出されるメカニズムについて神経細胞や腺細胞で研究が進んでいます。それぞれの研究からわかってきていることを組み合わせれば、vesicleとキネシンをつなぐたんぱく質や、その活性を調節する分子が絞り込めそうに思います。もしかしたら開口放出したvesicleの再利用がうまくいっていない可能性もあるかもしれません。
今回の報告は患者数の少ない難病でも、モデル作製がうまくできれば、分子生物学的なアプローチが解明の一歩となるひとつの例だと思います。治療に使えるようなターゲットが見つかるのはまだ先のことですが、ホーキング博士を長年悩ませている病気が治る時代が来ると思うと技術の進歩と研究者の努力はすごいと思います。

Acta Neuropathologica誌へのリンク