[論文] BG Medicine Galectin-3が心不全を進行させる? (2011/09/27)
BG Medicineのプレスリリースによると、galectin-3が心不全の疾患において重要であることを複数の学会で報告したそうです。学会では、心不全の患者においてgalectin-3の血中レベルと心不全の程度に相関があり、galectin-3を持たない動物モデルで心不全の進行を抑えられること、galectin-3に結合して機能を失わせる阻害剤(N-acetyllactosamine :Gal3i))で動物モデルでの心不全の進行が抑えられること、を報告しており、BG Medicineではgalectin-3をターゲットとした心不全の新薬開発に力を入れているとのことです。
ガレクチンは、植物のレクチン同様糖たんぱく質にベタベタくっつくという特徴があるだけで、ECMにくっついて接着促進でもしているのかな、くらいのイメージしかありませんでしたが、実はそれだけではなくサイトカイン様の働きをして炎症細胞の活性を調節し、アポトーシスにも関与するなど、多彩な機能がわかってきているようです。
今回は、何故か心不全でgalectin-3が増えて、それが心不全の進行に関係しているという裏付けがとれたということで、疾患への関与は間違いなさそうですが、しかし、血中のgalectin-3が増える背景が見えていないような気がします。たとえば、炎症細胞で産生されたgalectin-3が増えるということならば、それは体のどこかで炎症が起こっている、というシグナルであるはずで、その原因を治療すれば、わざわざgalectin-3の阻害剤を投与するなど対処療法的なアプローチをしなくてもよいように思うのです。
そうは言っても患者さんは待っていられないので、galectin-3阻害剤はこのまま開発ステップにのっていくのでしょう。ただ、Galectin-3を診断薬として用いるのはなかなか有用だと思ったら免疫生物研究所が抗体の供給元としてBG Medicineと契約していました。良い抗体があれば儲かる時代がきているのかもしれません。
[論文] インペリアル大 体内にひそむガンを検知&撃退する新技術 (2011/09/20)
ガンの検査では、全身のガンを調べられるPETのような便利な検査がありますが、マーカー、あるいは精度の問題で疑陽性や疑陰性が出てしまうことがあり、まだ技術の進歩が必要な部分があるようです。
インペリアル大の研究チームは、神経内分泌ガンの細胞の表面にソマトスタチン受容体(sstr-2)が多く発現することに注目し、これに対するアンタゴニストをいくつか設計し、18FでラベルしてPETで見たところ、肝臓への非特異的な集積をせず、sstr-2に高いアフィニティーを示すものが得られたことを報告しました。このアンタゴニストにより、PETを使ってガンの居場所をより正確に検知することが可能になり、またラベルする物質を変えれば、ガンを特異的に攻撃する治療薬として開発できる可能性があるとのことで、今後の展開が期待されます。
ここで、ひとつ疑問に思ったのは、ガン細胞は何故ソマトスタチンを欲しがるのか、という点です。ソマトスタチンは神経終末で細胞内カルシウムの上昇によって放出され、それが放出した細胞に反応して、分泌をストップさせるというネガティブフィードバックの機構を持ちますが、ソマトスタチン受容体を増やしたところで、その細胞の分泌機能を止める以外にあまり利点がないように思います。何かの原因でソマトスタチン量が減り、細胞内に移行するソマトスタチン受容体が減った結果、表面に沢山局在する数が増えたということなのでしょうか。
ただ、近年になってソマトスタチンに神経保護に働く分子の活性をあげる機能があることや、アルツハイマーの疾患でソマトスタチンの量が減ることが報告されるなど、ソマトスタチンの新しい機能が明らかとなってきているため、ソマトスタチンの機能解明によりガン細胞にソマトスタチン受容体が増える理由や、ガン細胞の制御につながる知見が得られる可能性があります。それにしても、たった14アミノ酸のポリペプチドがガン細胞検知に役立ち、アルツハイマー治療のカギになるなど、やはり分子生物の世界は奥深いと感じます。
[論文] 山形大 がん幹細胞からがん細胞分化へのきっかけとなる分子を解明 (2011/09/13)
近年の研究により、がん細胞の種類として幹細胞様の働きをするがん幹細胞が存在することが明らかとなっています。このがん幹細胞が無限に自己複製し、その一部が分化してがん細胞化することにより、がん細胞の増殖がおこるとされています。また、がん幹細胞はがん細胞よりも抗がん剤や放射線に耐性があるために、治療によって完全に除けなかったがん幹細胞からがんの再発や転移に発展してしまうという問題が指摘されており、がん幹細胞を標的とした治療法が研究されています。
山形大の研究グループは脳腫瘍のひとつである膠芽腫のがん幹細胞(CSLCs)に注目し、FoxO3aという分子ががん細胞への分化と、腫瘍形成抑制へ関与していることを報告しました。研究グループはPI3K/AktのパスウェーとMEK/ERKのパスウェーの2つを阻害すると、膠芽腫CSLCsのがん細胞への分化が促進され、腫瘍形成抑制につながるという結果から、この2つのパスウェーがどのように関与しているのかを調べ、AktとERKによりリン酸化されるFoxO3aという分子を同定しました。FoxO3aはForkhead転写因子のひとつで、通常は核内に局在して標的遺伝子の発現を亢進し、リン酸化により転写活性を失います。研究グループは、膠芽腫CSLCsのAktとERKのパスウェーを阻害すると、FoxO3aのリン酸化阻害により転写活性が回復し、これにより膠芽腫CSLCsの分化が促進され、腫瘍形成抑制になると説明しており、AktとERKによるリン酸化部位のない変異体のFoxO3でも同様の結果が得られたことからも、膠芽腫CSLCsの分化にはFoxO3aがキーとなって働いていると結論づけています。
AktやERKは様々なたんぱく質をリン酸化するキナーゼであるため、これらをターゲットとすることは現実的ではありませんが、膠芽腫CSLCsの分化に特異的に働くFoxO3aが明らかとなったことから、FoxO3aをターゲットとした膠芽腫治療薬や、がん細胞とがん幹細胞を見分けるマーカーの開発など、さまざまな展開が期待されます。
[論文] Rice大学 天然に近い合成コラーゲンの開発 (2011/09/06)
Rice大学の研究チームは、天然のコラーゲンと同様に繊維化し、ハイドロゲル化する合成コラーゲンについて報告しました。
動物細胞の培養ではコラーゲンやファイブロネクチンなどの細胞外マトリクス(ECM)を培養プレートへコーティングし、細胞が接着しやすくすることが必要な場合が多いのですが、動物組織由来のECMにはグロースファクター、あるいはウイルスなど含まれるために、実験モデル作製の障害となる場合がありました。さらに、ECMは細胞が増殖し、マイグレーションや伸展するために重要であるため、損傷部位へのECMの移植という治療法がとられていますが、上記と同様コンタミネーションの問題があるようです。
研究グループでは、天然のコラーゲンが自己の活性で3重ヘリックスを形成してナノファイバー化し、最終的にはハイドロゲル化する、という特性を合成のコラーゲンに付与するため、コラーゲンに特徴的なプロリン-ヒドロシキプロリン-グリシンの繰り返し配列をリシンとアスパラギン酸の水素結合により補完することで、コラーゲンが繊維化する活性を安定化しました。これにより、天然のコラーゲンと同じように3重ヘリックスを形成、ナノファイバー化し、数百ナノメートルの長さにすることに成功し、さらに水を含んでハイドロゲル化したということです。また、ハイドロゲル化した人工コラーゲンは天然のコラーゲンと同様にコラゲナーゼにより分解したことを確認しています。生体にコラーゲンを移植した場合、最終的には生体内のコラゲナーゼで分解され、新たに生合成されるコラーゲンに置き換わる必要があるため、コラゲナーゼによる分解が天然のものと同様であることは重要であると思われます。
合成コラーゲンについては多く研究されており、実用化されているものや特許が取得されているものもありますが、天然コラーゲンと同様の特性をもつ合成コラーゲンについての報告は今回が初めてのようです。移植など、医療現場での応用には安全性の問題をクリアにする必要がありますが、動物ではなく細胞をベースとした実験が増えてきている研究開発の分野においても利用の場面が多数あると考えられます。