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[論文] Duke大 慢性ストレスによるDNA損傷のメカニズムを解明 (2011/08/31)

Duke大の研究グループは慢性ストレスによるDNA損傷にβ-arrestin-1が関与していることを報告しました。慢性ストレスは消化性潰瘍や循環器疾患などを引き起こすことで知られ、また疫学的な研究により、DNA損傷に関与していることが明らかになっています。慢性ストレスによるDNA損傷は、老化、腫瘍形成、流産を促進するとも言われているものの、どのようなメカニズムでDNA損傷が起こるのかはわかっていませんでした。

研究グループはβアドレナリン作動薬の長期刺激によるDNA損傷が、ガンの抑制やDNAの保護に働くp53の減少によることを明らかにしました。これは、作動薬で活性化したGsによりリクルートされるβ-arrestin-1という分子が、p53の働きを抑制するMDM2の活性化を助けることにより、p53の分解を促進するためで、このことはβ-arrestin-1のノックアウトマウスにβアドレナリン作動薬を与える実験において、p53が保持されることを確認しています。慢性ストレスにより、β-arrestin-1がp53を分解する経路を活性化してしまうという分子メカニズムが明らかになったことで、DNA損傷により引き起こされる疾患の予防や治療に役立てられる可能性があります。ストレスをためるのは良くない、ということが分子生物学的に証明されたことになりますが、そうは言っても改善が難しい場合もありそうです。

p53についてはガン抑制の視点からの研究が進められており、最近では九州大のグループが核タンパク質のひとつであるPICT1という分子がp53の抑制に働いており、PICT1欠損細胞ではp53の活性化が見られ、またPICT1の発現の少ないガンの患者では予後が良かったことからPICT1の制御がガンの抑制に重要であると報告しており、p53を中心に関連の分子に注目が集まっているようです。

[総説] C. albicansのバイオフィルムと適応戦略 (2011/08/25)

PLoS BiologyにC.albicansのバイオフィルムと生活環についての紹介記事がありました。

C.albicansはカンジダ症の原因菌。酵母の一種でこの菌による感染部位でのバイオフィルム生成が臨床現場では問題となっています。

このC.albicansですが99年にMTL遺伝子が発見され接合が起こる事が確認されています。さらに特徴的なのは、この酵母の接合が単純な二倍体の減数分裂を介した接合ではなく、W(white)/O(opaque)という形態変換に引き続いて起こる、複雑な接合システムからなっている事です。37℃以上(感染宿主の体温付近)ではW株が維持され、それ以下になると極々一部のホモMTL(a/aまたはα/α)細胞がO株に変換し、このO株細胞がW株細胞と接合が可能になります。

さて、バイオフィルムとMTLの関係ですが、W株はホモであってもヘテロであってもバイオフィルム形成能を持つことが判っています
このうちW株ホモのバイオフィルムは接合フェロモンの放出によって形成が誘導され、さらにO株との接合の場として機能するために接合フェロモンの濃度を維持する装置として働いていると考えられています。一方、W株ヘテロのバイオフィルムでは接合フェロモン合成は抑制されていることいることが明らかにされています。このことから以下の2つの仮説が提案されているようです。
① W株ヘテロ型細胞ではW株ホモ型細胞では、それぞれ違った目的でバイオフィルムを合成している。
② W株ヘテロ型細胞ではW株ホモ型細胞とは異なる代謝経路がバイオフィルムの合成を制御している。

①の仮説検証のため、それぞれのバイオフィルムの厚さ・外部ストレスに対する耐性などが比較されました。ここでは抗真菌薬のフルコナゾールと白血球に対する耐性が調べられました。その結果ヘテロ型ではやはり外部ストレスに対する耐性が強い事が確認され、W株ヘテロ型細胞が防御手段としてバイオフィルムを合成していることが示唆されました。一方のW株ホモ型は防御手段としてというより、やはり接合の場としてバイオフィルムを利用している事が同じく示唆されています。

②の仮説はヘテロ型細胞のバイオフィルムがRas1/cAMP系により制御されているのに対してホモ型がこれとは異なるフェロモン系により制御されているという確証が得られています。

細菌ではクオラムセンシング、接合、バイオフィルム合成の関連性が広く研究されていますが、同じようなメカニズムが真菌にもあるようですが、細胞の形態によって発動するバイオフィルムの合成パスウェイがそれぞれ異なるというのは遺伝子の進化のメカニズムとしてとても興味深いですね。これがC.albicansまたは真菌独自のシステムなのか、あるいはクオラムセンシングと強く結びついた、生物に広く維持されている汎用性の高いシステムなのか、今後明らかにされるかもしれません。

MIT・Lincolin研究所 細胞のアポトーシスに注目した抗ウイルス薬 (2011/08/22)

MITのLincolin研究所の研究グループは、Double-stranded RNA Activated Caspase Oligomerizers (DRACO)を利用した抗ウイルスのシステムを報告しました。DRACOは細胞の自己防衛機能に注目し開発されたもので、ライノウイルス、H1N1インフルエンザウイルス、ポリオウイルスなど15種類のウイルスに対して効果があることを確認したそうです。

一般的に、ウイルスが感染した細胞では、ウイルスのコピーであるdouble-strand RNA (dsRNA)を産生するようになります。しかし、これは本来ヒトや動物の細胞では産生しないものなので、dsRNAに結合してそれ以上複製させないように働くタンパク質があるそうです。研究グループではこのタンパク質を応用できないかと考えたのですが、多くのウイルスではこのタンパク質の働きをも止めてしまうため、この方法は断念したようです。
次に考え出したのが、冒頭に名前のあったDRACOのシステムで、dsRNA結合タンパク質(PKRまたはRNase L)に、caspaseを活性化してアポトーシスを誘導するタンパク質(apoptotic protease activating factor 1 あるいはFLICE activated death domain)を融合させたものを用い、dsRNAにDRACOが結合することにより、もう一方のアポトーシス誘導タンパク質の働きで感染した細胞にアポトーシスを起こさせて、dsRNAの産生を止めるというものです。研究グループではヒトと動物の細胞でこのDRACOの効果を確認しており、さらにH1N1インフルエンザウイルスに感染させたマウスにDRACOを用いたところ、大幅に感染を食い止めることができたということです。DRACOに用いる配列の選択や加える濃度の設定、細胞内へ移行させるタグの安全性など、検討する点は多くありますが、他の動物でも効果が確認できればヒトの臨床試験へのステップアップを考えているということで、新しい抗ウイルス薬となるのか期待されます。

現在インフルエンザの治療薬としてはタミフル(ロシュ)、リレンザ(GSK)などのノイラミニダーゼ阻害薬が主流です。これらは、インフルエンザウイルス表面にあるヘマグルチニンと宿主細胞表面のシアル酸の結合を維持することで、細胞内で増殖したインフルエンザウイルスが細胞外に放出されるのを阻害します。しかし、ノイラミニダーゼを持たないC型のウイルスには効果がなく、また近年ではタミフル耐性を獲得したインフルエンザウイルスが報告されていることからも、異なる作用機序の薬剤が望まれており、DRACOのウイルスの種類に関係なくウイルスの増殖を抑えられるという特徴は開発していく上で強みになると考えられます。

プレスリリース
PLoS one誌へのリンク

Cytomedix Platelet-Rich Plasma Gelを利用した創傷治癒システム (2011/08/18)

CytomedixはPlatelet-Rich Plasma Gelを利用したAutoloGelシステムが創傷の治療に効果があることを報告しました。

創傷とは身体が障害され、皮膚、皮下組織、筋肉などの連続性が遮断された状態を指し、創傷がそのままでは感染症にかかりやすくなり、重症化すれば入院、さらには切除しなくてはならない場合もあり、早期の治療が重要です。しかし、30日かかっても治癒しない慢性創傷という状態になる場合もあります。糖尿病や血管の障害が原因で生じた潰瘍や褥瘡がそれにあたり、血管の働きが悪くなっているために、治癒機能が低下して慢性創傷となっていると考えられています。

Cytomedixでは創傷の患者から採取した血液からPlatelet rich plasma (PRP)を単離してゲル状にしたものを、創傷部位にのせることで、ゲルに含まれるグロースファクター、サイトカイン、ケモカインなどの創傷治癒に必要な因子により、創傷の自然治癒を促進するというAutoloGelシステムを考案し、実際に慢性創傷患者へ用いたところ、96.5%の患者で症状の改善が見られたということです。このシステムでは患者由来のplasmaを用いることで免疫反応を避け、またPlatelet rich plasmaにより生体に近い濃度・種類の創傷治癒因子を創傷部位に用いることができるという特徴があります。

創傷の治療方法は、創傷の治癒過程の研究により、消毒薬で消毒してガーゼをまくといった方法から、消毒は最低限にして創傷部位を湿潤させて自己の修復機能を促進する湿潤療法へとシフトしており、同じように自己の修復機能を促進するAutoloGelシステムも治療法のひとつとして受け入れられていくのではないかと考えられます。

自己の成分を治療に用いる例としては自己血清の点眼があります。これはドライアイの患者で角膜に障害がみられる場合に、自己血清を点眼することで、血清に含まれるグロースファクターにより、障害を受けた角膜の再生を促進するというもので、角膜の障害を創傷とすれば、AutoloGelシステムと似たような状況で創傷の修復が起こっていると考えられます。

プレスリリース
Advances in Skin & Wound Care誌へのリンク

[論文] UCSF大 吸血コウモリを用いた熱知覚システム解明へ (2011/08/05)

一般的にコウモリは超音波のような音を発して音の反射で獲物を見つけるといわれていますが、UCSF大の研究グループは、吸血コウモリが鼻の表面に熱感受性に特化した三叉神経の神経終末をもち、獲物の皮膚の下を流れる血液の温度を赤外線として探知していることを発見しました。

研究グループはこの赤外線感知に特化した神経細胞の遺伝的な背景に注目し、吸血コウモリとヒトや動物との関係を調べたところ、43℃以上の熱やカプサイシンなどで刺激されるTRPV1(transient receptor potential cation channel subfamily V member 1)という受容体と似ていることがわかりました。研究グループではこの熱に反応する受容体がTRPV1のスプライシングによるもので、後根神経節ではなく、三叉神経節で多くがスプライシングされていることから、熱を知覚する検出器として働いていると示唆しており、この研究を進めることにより三叉神経痛のような神経疾患における鎮痛剤の開発につながると期待しています。

TRPV1の疼痛治療薬への応用としては、カルシウム脱感作の仕組みを使ったカプサイシンの塗り薬が検討されていました。TRPV1はカルシウムチャネルの一つでカプサイシンや熱の刺激により細胞内にカルシウムを取り込みますが、そのカルシウムが細胞内のカルモジュリンと結合してTRPV1を不活性化することで、刺激がそれ以上伝わらなくなるという現象を利用したものなのですが、カプサイシンの刺激による痛みが発生してしまうため、あまり実用性がなかったようです。そのほかにも、TRPV1の作動薬を利用した疼痛治療薬が複数開発中で、日本ではTRPV1の作動薬のひとつが大日本住友製薬からマルホに導出されています。さらに、アンタゴニストによる治療薬も複数開発中であり、多くの製薬会社がTRPV1をターゲットとした新薬開発に注目していることがわかります。

Nature誌へのリンク

[論文] アスペルギルスの低酸素適応と病原性の関係 (2011/08/01)

In vivo Hypoxia and a Fungal Alcohol Dehydrogenase Influence the Pathogenesis of Invasive Pulmonary Aspergillosis (PLoS Pathogens)

重症化すると致死性の高い呼吸器疾患としてアスペルギルス属真菌の感染によるものが知られています(メルクマニュアル:アスペルギルス症)そこらじゅうどこにでもいるA.fumigatusによる日和見感染症で、やっかいな真菌感染症の一つです。

今回の研究ではこのA.fumigatusの感染モデルマウスの肺をまずは1H-NMRメタボロミクスを用いて解析しました。
驚くべきことに、解析の結果、感染肺組織からエタノールを検出。この発見を元に彼らは“侵襲性肺アスペルギルス症にはターゲット組織の低酸素状態が関与しているのでは”と仮説を立てました。(つまり低酸素状態の組織で、A.fumigatusがアルコール発酵による呼吸をしていると仮説立て)

低酸素検出試薬を使うと、実際にモデルマウス肺の感染部位には低酸素領域があることを確認。

さらにアルコール発酵能と病原性の関連を検証のため、ΔalcC、ΔpdcA破壊株を作製しアルコール非産生タイプのA.fumigatusによる感染モデルマウスと正常株感染モデルマウスを比較しました。すると、予想に反してどちらのタイプも生育速度に差はなかったものの、アルコール非産生タイプの個体では炎症反応が上昇していました。

結果、A.fumigatusの感染によって肺組織で低酸素部位が発生すること、それによりA.fumigatusの代謝が変化しアルコールを産生するらしいこと、さらにこの感染部位でのアルコール産生はどうやら病原性の発現にも関与していることがわかりましたが、アルコール産生と病原性の因果関係(相関ではなく)の解明にについてはいまいちわかりませんでした。

ちなみに、低酸素と炎症反応について、最近よく研究されはじめたようで、HIF-1という低酸素誘導性の転写因子が関与することが知られています。HIF-1は今後の抗癌剤ターゲットとしても有望視されているようで、今回の真菌感染の低酸素適応のメカニズムが明らかにされれば、恐らく有望な抗菌ターゲットも見出されるでしょうね。

PLoS Pathogens誌へのリンク